森山直太朗の「さくら(独唱)」(2003年3月5日発売)の大ヒット以降〈桜ソング〉が根強い人気だ。
桜は日本人にとって特
別な花。満開になったときの、えも言われぬ美しさ。しかし、あっという間に散ってしまうはかなさは無常感に通じ、日本人の心の琴線に触れるのだ。それと桜
が咲く季節が絶妙だ。桜シーズンには卒業式や人学式という大きな行事があり、サラリーマンであれば転勤などの人事異動の時期で、そこにはドラマチックな出
会いや別れがたくさん生まれるし、そのために感傷的になり易い季節ともいえる。
慣れ親しんだ人との別れが、ふだんは意識することなく過ごしてきた日常を愛おしいものとして蘇らせ、思わずしんみりとしてしまう。そんな感傷的な別れの場面に満開に咲いた美しい桜があれば、その桜の記憶も思い出と共に残る。?【サクラ開花いつ?予想めぐり気象3社の競争激化】
さらにそれを盛り上げる〈桜ソング〉があれば、歌も一緒になって人々の心に残っていくのだ。つまり桜を見たり、〈桜ソング〉を聴いたりすると、感動的な場面が思い出されることになるのである。
森山の「さくら」、福山雅治の「桜坂」、コブクロの「桜」、ケツメイシの「さくら」などを聴くと、涙と共に眠っていた想い出が蘇ってくるという人は多いだろう。つまり〈桜ソング〉は今や欠かせない存在なのである。
今年もたくさんの〈桜ソング〉が生まれた。「桜の木になろう/AKB48」「いくたびの櫻/ふくい舞」「桜の歌/藤澤ノリマサ」「桜色/中川翔子」「桜の
樹の下/KOKIA」「アワイロサクラチル/Violent is Savanna 」「桜雨 さくらあめ /瀬川瑛子」「君待ち桜/雅音人」「桜音/
ピコ」など。
すでにAKB48の「桜の木になろう」はミリオンセラーとなっているが、桜前線の北上と共にたくさんの人たちのハートをつかみそうなのがふくい舞の「いくたびの櫻」だ。
テーマがいい。春になると桜は自然に咲くと思われているが、実は1年間懸命に生きた証しとして美しい花をつけるのだ、というメッセージはふと人生を考えさ
せられる。京都出身のふくい舞はメジャー?デビューする直前に親友を亡くした経験を持っている。だから、桜の季節になると、親友と見上げた鴨川の桜と重ね
合わせて自然と感傷的になってしまうと言う。
「1年に1度咲く桜をながめるときには大切な人のことを考えながらながめて欲しいんです」と、“命の尊さ”を感じながら彼女は大切に歌い続けている。今はまだ蕾だが、桜前線北上と共に、彼女の歌も満開の花をつけるはずだ。
いずれにしても、桜が日本人に愛され続けるかぎり、〈桜ソング〉は生まれ、そしてたくさんの人たちのハートをキャッチすることだろう。 (音楽評論家?富澤一誠)