人気番組はどれか? と問われたとき、視聴者は何を参考にするだろうか。昨今はライフスタイルの変化により、どうしても“視聴率”だけでは人気がはかれなくなっているのが現状。例えば視聴率が振るわなくても、SNSで社会現象のように盛り上がっていたり、テレビの無い場所で動画配信サービスを利用したり、質が高いからこそ録画して好きな時間にじっくりと楽しみたい視聴者もいるだろう。かつては、翌日の学校や勤務先などで話題に乗り遅れないために、放送時間に家族揃ってテレビの前に集まっていた。だが、インターネットの普及により、そのスタイルも崩壊して久しい。今、“本当に視聴者が観たい番組”はどのような指標ではかるべきなのだろうか?
“スポンサーありき”の視聴率、ライフスタイルの変化で浦島太郎状態
特にドラマは視聴率で評価される傾向が強いのだが、テレビ朝日の早河洋会長兼CEOは11日、昨今取り沙汰されるテレビの視聴率低下問題について、あるポジティブな発言をしている。早河氏は同局の4月クールドラマ『おっさんずラブ』のSNS人気について触れ、「数字的には失敗」としながらも、「配信系のドラマだけを志望するのは違う。出口は色々ある」と前向きな発言につなげたのだ。
『おっさんずラブ』の平均視聴率は4.0%。深夜ドラマということを加味しても「やや低い」が、実は同作、放送中のTwitterのトレンドで2週連続“世界一”を記録している。これら視聴率と人気のかい離についてはすでに多くの人々に論じられており、00年代以降のスマーフォンの登場から娯楽の中心だったテレビの存在が薄れた説や、録画機器の機能向上、動画配信サービスの充実、リアルタイムでテレビを観る選択肢以外のものが激増するライフスタイルの変化など、多くの分析がそこかしこに。数字が1桁でも「ドラマが観られていない」と言えないことは、誰もが気付き始めているだろう。
制作現場が嘆き、視聴者も怒り…視聴率と盛り上がりの“かい離”が顕著に
そんな中、ポジティブな発言をする者も見られ始めているという。「数字より番組の質向上や面白さの追求を重視したいと話す人も増えてきている。視聴率のからくりについても彼らなりに分析。例えば10%前後の安定した視聴率を獲る枠は60代以上が見ている場合が多い。これは“この時間にドラマを観る”という“視聴習慣”の強い世代。同時にお金も持つ世代で、番組グッズやDVDなどもよく売れる。かたや若い世代は、録画して好きな時間に観たい世代。しかも人口的に数が少なく、使えるお金も限られているので数字に現れにくい。ですが高齢者に向けてばかり作っていると20年後の状況の変化に乗り遅れる。なので若者に“バズる”作品を作ることに心血を注いでいるようです」(衣輪氏)
今期の朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合)の脚本?北川悦吏子氏も、SNS上でこう語っている。「もう数字はいいんじゃないか (中略)いろんな指標がこの世にはあるし、結局計りきれないよ。人の心にどの程度届いたか、なんて。だから、自分の信じるものを作る(後略)」。視聴者の間でも、視聴率について「それだけが指標ではない」とする論調が浮上。とくに『おっさんずラブ』ファンは顕著で、2週連続“世界一”を引き合いに、「視聴率という評価基準について考えなければいけないのでは?」など熱く議論されているようだ。
ビデオリサーチ社も含め、月兑視聴率の風潮に各社が掲げる“新しい指標”
「タイムシフト視聴率」とはビデオリサーチ社が放送終了後7日間の視聴状況を独自に調査した通称?録画視聴率。最重要の指標として君臨する従来の“視聴率”だけでは全てを評価できなくなっている今、ビデオリサーチ社も自ら新たな指標を提示している。また、視聴率を誌面の基準のひとつとしているテレビ誌でも、数年前から『TVガイド』(東京ニュース通信社)は独自に「満足度ランキング」を調査。『ザテレビジョン』(KADOKAWA)はSNSでのトレンドを加味した「視聴熱」を集計。
他にも、最近では各社のドラマ賞は“質”で受賞作品を選んでいる印象だ。放送後の受賞は視聴率には結びつかないため軽視される傾向にあったが、最近はDVD?Blu-rayディスクなどのパッケージ購人はもちろん、放送終了後の配信でマネタイズにつなげられる。「そうした状況を踏まえての先述のテレ朝?早河会長の発言は、“経営陣からの発言”という点で大きな変化」と衣輪氏は解説する。
「現在、視聴率低下は一部メディアやユーザーのテレビ叩き用“おもちゃ”にされている感も否めない。だがユーザーからもこれに疑問の声が上がり始めている。もしかしたら『おっさんずラブ』のような作品は将来、“視聴率だけが指標じゃない”風潮の“きっかけ”として語り継がれるドラマになるかもしれない」(衣輪氏)。
視聴率を巡る状況が激変している昨今、われわれメディアも視聴率+αの新たな指標で報じることが求められている。時代に合わせた“指標”を整えることで、更なる質の高い番組の制作、視聴者の満足度の向上、時代に合ったマネタイズ…と好循環に繋がるだろう。制作現場だけでなく、視聴者からも疑問の声が上がる今、真剣に考えるときが来たのではないだろうか。