https://news.yahoo.co.jp/byline/suzukiyuji/20171119-00078319/
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続くドクターヘリ番組に新サービスの可能性をみた!~『コード.ブルー』から『プロフェッショナル』まで~ テレビではここ数か月、“ドクターヘリ”をネタにした番組が立て続けに放送された。
トップバッターは『コード.ブルー3』。主演は山下智久、ヒロインが新垣結衣。今回は3シリーズ目だったが、夏クールのドラマでは一番の盛り上がりを見せた。
その大ヒットを受け、10月に『セブンルール』が宮崎県の紅一点フライトドクターを取り上げた。ドラマでは新垣結衣や戸田恵梨香が演じた立場で、ノンフィクションならではのリアリティがあった。
今月は2日連続で“ドクターヘリ”にスポットがあたった。12日(日)はテレビ東京『日曜ビッグ』の「激撮!救命救急リアル現場 24時間...命を守る医師たち」。翌13日(月)はNHK『プロフェッショナル』の「ドクターヘリ出動!地域を守り抜け」。
ドラマで紹介されたテーマや社会問題は、ノンフィクションで改めて見ると、現実の理解が格段に深まる。こうした局や番組を超えた“テーマ連携”の意味を考えてみた。
この夏一番見られたドラマ 不振続きのフジテレビ“月9”の中では、久しぶりに高視聴率となったのが『コード.ブルー3』。来年の映画化も既に決まっている。?
山ピー.ガッキーの他、戸田恵梨香.浅利陽介.比嘉愛未などレギュラーの他、シーズン3では有岡大貴.成田凌.新木優子.馬場ふみかなどの新人医療スタッフが加わった。本格的医療ドラマに、人間ドラマなどが加味され、一部視聴者に“恋愛要素”批判があったものの、全体として評価は高かった。ハリウッドのヒット映画にあるような“3つの波”がバランスよく散りばめられた所以だった。
詳細を知りたい方は、以下の拙稿を参照されたい。
『コード. ブルー』人気を支える“3つの波”~緊急救命物語. 山ピーやガッキーらの人間ドラマ. 医療問題~
恋愛要素を否定するネット記事は正しい?<反批判のドラマ批評4 山下智久×新垣結衣『コード. ブルー』>
『コード. ブルー3』を客観的に評価してみた!~データで見る評価とラストへの期待~
ただしシーズン1(2008年夏).2(10年冬)と比べ、シーズン3の平均視聴率は1~2%下った。15.9%→16.6%→14.8%と推移していたのである。
しかし実際には、この間にHUT(総世帯視聴率)は4%ほど下がり、地上波テレビ以外のBSやCSなどの視聴率(その他視聴率)は4%ほど増えていた。つまり地上波テレビは差し引きで7~8%も視聴率を失っていたので、シーズン3の1~2%低下は想定の内といえよう。
逆にこの間に、デジタル録画機が普及し、録画再生視聴が増えていた。
これに対してビデオリサーチは、去年10月からリアルタイムあるいはタイムシフトのどちらかで番組を見た世帯の割合(総合視聴率)を出すようになった。
これで見ると、シーズン3は24%台の世帯が見ていた。シーズン1や2の時は今ほどデジタル録画機が普及していなかったので、シーズン3が一番よく見られた可能性がある。
満足度も良好 視聴率などの量的評価だけでなく、見た人の質評価も『コード.ブルー3』は高かった。
“恋愛要素”を含めた人間ドラマを織り交ぜたことで、ネット上では批判が殺到しているように見えた。「脚本家変更で視聴率大コケの可能性?」「恋愛要素にうんざり」「批判殺到」「大ブーイング必至」などの声だ。
ところがデータニュース社「テレビウォッチャー」 が調べる満足度では、『コード.ブルー3』は過去1年では『逃げ恥』に次ぐ成績だった。平均視聴率で7%近く離された『ドクターX』と比べても、満足度ではかなり上を行っていた。
「感動」男21歳
「毎回いろいろ考えさせられた」女24歳
「とても見応えのある医療ドラマだった」男36歳
「期待通りの最終回だった」女48歳
「緊迫感があって目が離せなかった」女64歳
全話を視聴した人々の最終回での声は、高い評価のものが目立った。ネット上のラウドマイノリティはさて置き、サイレントマジョリティ(一般の人々)の評価はかなり良かったと見るべきだろう。
女性フライトドクターの『セブンルール』 自らのキャリアを輝かせている女性を紹介する『セブンルール』。
『コード.ブルー3』直後に、宮崎初の女性フライトドクター候補生.篠原希(31歳)を取り上げた。医師5年目の彼女の活動ぶりは、ガッキー.戸田恵梨香.新木優子が活躍したドラマとは全く異なることが多く、興味深い内容だった。
番組は人生を映し出す7つのルールを補線に、主人公を紹介していく。
ルール1「離陸の際に窓から手を振る」
一見すると他愛もない動作だが、ドクターヘリ制度では大きな意味を持つ。
宮崎県のドクターヘリは、30分以内に県内全域に医師を運ぶことができる。2016年は406件出動し、多くの命を救ってきた。
ところが運航費用は年間約2億3000万円。ヘリの離発着には騒音も結構あり、地域で理解を得るのは簡単ではない。
「地域の人の協力がないとヘリの運航はないので、皆さんと一緒にありますよって意味も重要なのです」
女性らしく、こんな配慮と思いがルールの筆頭に来ていた。
ルール2「病気ではなく患者を診る」
大学病院に急患を搬送すると、複数の専門医により治療が始まる。ところが篠原は、患者を診ずにパソコンに向かってしまう。
「早く記録を書かないと、次の要請で飛んじゃうので、後はお任せ」だ。ドラマと大きく異なる点だ。
その代わり、チームの中で彼女はもっぱら患者に言葉をかけて回る。飼ってる動物や好きな食べ物など患者の個人情報を覚え、患者とのコミュニケーションを心がけているという。
篠原は高校時代に病に罹った。近くの病院に1年ほど通ったが原因が分からず、治ることもなく、病院の医師は「痛いのは嘘なんじゃないか」とさえ言ってきた。
その後大学病院の医師は、レントゲンとCTを初めて診て「これは痛かったね」と声をかけてくれた。それを聞いて、「救われた気がした。お医者さんのひと言ってこんなにすごいんだ」と感じたそうだ。
手術とリハビリで完治まで2年間。退院後に受験勉強を一からやり直し、20歳で宮崎大学医学部に合格。こうして医師の道を歩み始めたのである。
「体だけではなく、心も労わりたい」彼女のそんな姿勢が、周囲の患者の笑顔となっていた。
ルール6「男と張り合わない」
医師になり立ての頃、医局には女性はゼロだった。「男みたいにガツガツやらないと、この世界やっていけないと考えていた」という。その果てに、患者から言われた言葉は「男の医者に代われ」だった。
「患者さんも気づいていた。男社会で生きていくためのツンツンした態度が、見透かされてた」患者に寄り添う医師を目指していたはずが、患者に拒絶された。ここから篠原は蘇る。
「虚勢を張っていても仕方ない。女性救急医として出来ることを探す」と方向転換を図った。看護師と医師の間のような存在、患者?家族と同じ立場で話し合えるような存在を目指し始めたのである。
一刻を争う過酷な男の現場で、女が自分の居場所を見つける大変さが同番組にはあった。しかも多額の税金が投人されていることへの目線も忘れない。ノンフィクションならではの切り口は、ドラマと異なる知見を得られる佳作といえよう。
硬派なノンフィクション『プロフェッショナル』 『プロフェッショナル』は、より過酷な現場を迫真の映像で構成して来た。
舞台は兵庫県豊岡市の但馬救命救急センター。主人公は救急医.小林誠人(48)。8年前に地域医療の拠点.豊岡病院に救命救急センターを立ち上げた。23名のスタッフを率いている。年間1900回以上飛ぶ全国一の出動数で、救命率を以前の5倍に引き上げた。
彼らがカバーするのは、半径80kmと東京とより遥かに広い地域。典型的な救急医療過疎地だ。そこで地域の安心安全を担保するため、小林はシステムの確立に尽力してきた。
例えば、119番通報を受け付ける際の「キーワード方式」。通常は通報を受けると、まず救命士が現場にかけつけ、そこの判断でヘリ要請となる。しかしこれでは手遅れとなることがある。そこで重症を疑うキーワードがあれば、即ヘリ要請へと変えた。
結果としてヘリ出動後のキャンセルが25%に増えた。「無駄とみるか、75%に有効と見るか?」と彼はいうが、確かに救った命が増えたことも間違いない。
他に「脳卒中プロトコール(治療手順)」など、病院で待機する救急チームの体制をいち早く整える手順も作られた。
医療の世界は、研究医と臨床医に大別される。大学や病院などの持ち場で、例えば内科や外科で最善の医療を尽くしてきた。ところが筆者が90年代に欧米を取材した際、研究医や臨床医の他に教育医という存在があることを知った。その名の通り医師教育に携わるが、他に一科目に限定せずに、システム作りや制度作りを通じて医療全体の向上に尽力している人々だ。かくして欧米では、医薬分業やインフォームドコンセントなどがいち早く実施されてきた。
「(医者は)地域の“歯車”」「地域の街づくりの1つのコマとして、回って行けばいいんじゃないですか」と小林は言う。システム作りを重視してきた彼の言葉らしい。欧米でみた教育医的な発想が、日本でも定着し始めて居るようだった。
「命ある限り、フルスイング」 番組では他に、立て続けに来た3件の出動要請にどう対応したか、あるいは辺地で発生した急患を救うまでの丹念なドキュメントが紹介された。
ヘリの中で急患の胸を開き、直接心臓をマッサージしながら搬送するシーン。
一旦心停止したが、粘り強い対応で心臓は復活...しかし脳の損傷が激しく、結局救命できなかったケース。
臨時の手術室と足りない機材の中で、知恵と工夫で患者を治療する場面。
ドラマとは異なるリアリティは、視聴者の目を釘付けにする。また人々の暮らしや社会とリンクした現実なだけに、考えさせられる部分もとても多い。
「人間は確かに亡くなるんだけど、残りの人生を全うさせるために、この怪我を治さないといけないならば、フルスイングすべき。それで3%が100%になることだってある。とことんやり尽くして、そこで出て来た結果を見つめないと」
現実を切り取ったVTRを見た後に聞く小林の言葉は、説得力が違う。
横断的に番組を見る仕組み 以上、「ドクターヘリ」つながりで3番組を論じて来た。
現実には局も番組も放送日時も異なるため、我々はこれら3番組を見比べることは簡単に出来ない。また「NOD」「FOD」「TVer」「GYAO」など、見逃した番組を見られるサイトはいろいろあるが、横一列に並べて見比べることも容易でない。
ただし「アクトビラ」だと、『コード. ブルー』『プロフェッショナル』『セブンルール』は揃っており、好きな時に好きなように見比べられる。それでも『日曜ビッグ』は揃っていない。こうした欠落は、多くのサイトの宿命だ。
やはり見逃しやVOD等のサービスは、各局がバラバラに運営するのではなく、オールジャパンで提供すべきではないだろうか。そうしないと、視聴者の利便性は上がらない。
さらに同じテーマ.同じ切り口などで異なる番組の見比べの妙をレコメンドすれば、視聴者の興味は格段に増す。そうすれば、長年リアルタイム視聴を前提にしてきたテレビの楽しみ方も進化する。どの局も似たり寄ったりの番組に終始するのではなく、放送後に各局の切り口の違いを視聴者に楽しんでもらうぐらいの懐の深さが欲しいものだ。
こうすれば、テレビ局も二次的な収人も増え、番組の送り手も受けてもメリットを見出せる。昨今の広告収人の伸びを心配するだけでなく、テレビ業界の発展を現実的に進めるため、是非新たな挑戦に乗り出してもらいたいものである。鈴木祐司
次世代メディア研究所長/メディアアナリスト/津田塾大学研究員
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK人局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材.分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。直近の制作番組では、テレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」(共に2013年)。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。津田塾大学では計算機科学研究所にて客員研究員を拝命中。
鈴木祐司
次世代メディア研究所長/メディアアナリスト/津田塾大学研究員
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK人局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材.分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。直近の制作番組では、テレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」(共に2013年)。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。津田塾大学では計算機科学研究所にて客員研究員を拝命中。